01.10.18
植物についての概要
04.01.27
植物についての詳細
02.07.21
植物用語の図解
01.10.18
植物についてエトセトラ

《植物についての概要》 01.10.18

 植物の概要について調べる。図書館等で適切な図書を見つからなかったため、我が家に古くからあった日本百科大事典(小学館 昭和38年初版)から引用する。

(上田泰二郎)

−目 次−

1.植物とは 2.形 態 3.生 理
4.生 態 5.分 布 6.生 殖
7.分 類 8.植物と人生 9.植物採集
10.植物標本 11.植物学

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1.植物とは
 
植物は動物とともに生物の仲間で、複雑な体の構造をしており、常に生長をして、増殖をしては自分と同じ形の個体を作っている。植物と動物との違いは、植物は葉緑素を持っていて、二酸化炭素と水とを使って炭水化物を合成するものが多いが、動物はこのような働きがないので、植物や他の生物を摂取しないと生活できない。
また、植物は一般に固着生活をしていて、動物のような自由な運動が出来ないものが多い。しかし、ミドリムシのように、葉緑素を持っていて炭水化物を合成する働きがある点では植物の性質を持ち、眼点があって光に感じ、鞭毛を持って水中を自由に運動する点で動物の性質を持っているものがある。ミドリムシは植物として扱われることもあり、動物として考えられることもある。これは進化のはじめに植物とも動物とも考えられる生物が存在し、それから一方には今日見られるような色々な植物ができ、また他方に多くの動物が発達してきたと考えられる。
 また、植物の細胞は外側が細胞膜によって包まれているが、動物の細胞には細胞膜がないことも両者の主な違いである。

2.形 態
<細 胞>
 
形態は大きさをはじめとしてまことに様々であるが、全てに対して共通に言えることは、植物の体は必ず細胞でできていると言うことである。
 植物の中には細菌のように一つの細胞だけで一個の植物体を代表することもあり、また多数の細胞が集まって一個の植物を作ることもある。前者を単細胞植物、後者を多細胞植物という。多細胞植物の方が高等であり、細胞は働きや形を同じくするもの同士が集まって各種の組織を作り、またその組織が適当に集まって器官を形成している。
細胞は普通は肉眼に見えない程度の小さなもので、外側に主にセルロースでできている細胞があり、内部に原形質と称する生活作用を営んでいる部分があって、さらに核と細胞質に分かれている。細胞質は無色透明であるが、一部分は分化して球状の色素体などになっている。色素体の中で最も普通なものは葉緑体で、緑色をした植物の茎は葉に含まれ、葉緑素を持っていて、炭酸同化の時に働く。
 細胞は分裂して増えるが、これは外部的には生長という現象によって認められる。細胞が分裂するときには、まず核が分裂し、続いて分裂した核を一つずつ含んで細胞質が二分する。核分裂には無糸分裂と有糸分裂の2通りがある。無糸分裂は老衰した細胞や病気の細胞に起こるもので、核が単純にちぎれるだけであるが、普通の核分裂は有糸分裂に属し、主に減数分裂と称する複雑な過程を経て分裂増殖するものである。
<根>
 
根は、植物の体を土地に固着させ、また地中から水や無機塩類を吸収する働きをするために地中に発達する器官であるが、サツマイモなどに見られるように、養分の一部を蓄えておく器官となることもある。中心となる主根と、それから横に出る細い支根があるのが普通であるが、中にはイネなどのように支根だけしか発達しないひげ根もある。また、一年しか生きていない一年生根と、多年間生きている多年生根などにも分けられる。また、根のかわったものに、空気中にできる気根(セッコクやタコノキなど)、宿主の体から養分を吸収するための寄生根(ヤドリギ)などがあり、またタヌキモやムジナモなどのような浮き草の場合には根が全然発達しないこともある。
<茎>
 茎は、葉や花のような植物体の地上部をささえ、また水や養分の通路として働く器官で、従ってそれらの役目に応じて機械的組織や通道組織が発達している。茎はしばしばジャガイモ、タマネギ、ハスなどのように地下に発達することもあるが、この場合は地下茎と称し、普通の地上茎と区別する。茎には草立ちの場合と、木になる場合と二通りがある。また、まっすぐに立つ場合だけでなく、オランダイチゴなどのように横に伸びるもの、アサガオなどのように他物に巻きつくもの、サボテンなどのように太くなったもの、サイカチなどのように針に変わったもの、ナギイカダなどのように葉の形になったものなど、その他様々な形をしている。
<葉>
 
種子植物の種子が芽を出すと、まず子葉が現れる。子葉の数は被子植物類の単子葉植物では1枚、双子葉植物では2枚、裸子植物類では3枚から数枚が原則であり、このことは分類学上の重要な特徴とされている。
 葉は、普通は茎や枝に付いている扁平な器官で、細胞内に葉緑体があり、炭酸同化を営む。このため葉の多くは緑色をしている。また、根から吸収した水は体内で生活作用に使われた一部を残し、残りの大部分は主に葉から水蒸気となって失われる。このため葉の外面に気孔が発達し、主として日中、気候を通して水蒸気が出ていく。
 葉の付き方には互生、対生、輪生の3通りがあり、植物の種類やその仲間によってはほぼ決まっている。また、葉の形にもヤマザクラやカエデなどのように単葉のこともあれば、フジやアケビなどのように複葉のこともある。葉はしばしば他の役目をするために変形することがあるが、サボテンの針、エンドウの巻きひげ、ウツボカズラの捕虫袋、サンショウモの水中葉などがその例である。
<花・果実・種子>
 
根、茎、葉の他に、形態上重要な器官は種子植物における花及びその一部が成熟した果実並びに種子がある。花は生殖の目的のために葉が変形したもので、種子植物を分類する上で最も重要な特徴として使われる。花の構造、形態、集まり方がそれである。花は普通、萼、花弁、雄しべ、雌しべの4つの器官からなり、中でも、雄しべと雌しべは直接生殖に与る器官であり、果実や種子はともにその産物である。

3.生 理
<炭酸同化>
 
植物は、二酸化炭素と水、無機塩類などの無機化合物を外界から取り入れて、炭水化物、蛋白質、脂肪などの有機化合物を作ることができるので、独立して栄養を営んでいる。植物でも細菌類や下等な菌類などのように緑色をしていない仲間などは、動物と同じように他の生物の作った養分を摂って生活しているが、一般の緑色植物は、空気中の二酸化炭素と地中から吸い上げた水分とを原料として炭水化物を合成する。これを炭酸同化という。この場合、日光のエネルギーを利用して炭水化物を合成しているので、この働きを光合成と呼びぶ。光合成は主として葉で行われる。
<構成元素>
 
普通の植物の体を分析してみると、炭素、酸素、水素、窒素、燐、硫黄、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などの元素があり、実験の結果では、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、燐、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄の10元素が植物に不可欠な元素で、このうち一つでも欠けると、植物は健全に発育しないことが分かっている。
<水分調節>
 
根から吸収した水は、茎の中の道管という細い管を通って、茎に上昇しながらどんな高い木の頂上までも到達する。吸収した水の大部分は、葉の気孔から外界に蒸散し、植物はその他の方法でも水を排出することこともあり、このようにして体内の水は常に調節されている。
<窒素同化>
 
植物は光合成によって作った炭水化物と、根から吸収した無機の窒素化合物とを原料として蛋白質を合成することができる。この働きを窒素同化という。窒素化合物として植物に利用されるのは硝酸塩とアンモニウム塩とであって、これと炭水化物とからまずアミノ酸が合成され、アミノ酸が多数結合して蛋白質が作られる。蛋白質の合成は炭酸同化と違って、光がなくても行われるが、やはり葉で行われるのが最も盛んである。
<共生・寄生>
 
大部分の植物は、空気中の窒素をそのまま利用することができないが、マメ科植物の根に根粒を作る根粒細菌は、空気中の窒素を固定して窒素化合物をつくり、これをマメ科植物に与えているので、マメ科植物だけはこのため窒素分の少ない痩せ地でも容易に育っている。そのかわりマメ科植物は炭水化物、塩類、水などを根粒細菌に与えており、この両者は互いに利益を交換しながら生活を合理化している。このように違った生物同士で共同生活することを共生という。
これに対して大部分の細菌や菌類並びに小数の種子植物には葉緑素がなくて、炭酸同化ができないから、他の生物の体から養分を摂って生活するものがあり、これを寄生という。また、緑色植物の中には昆虫などを捕まえて消化し、これから養分の一部をとるものがあり、これを食虫植物と言うが、モウセンゴケ、タヌキモなどがこの例である。
<呼 吸>
 
植物は動物と全く同じように絶えず呼吸しているが、緑色植物は炭酸同化のために二酸化炭素を取り入れて酸素を出すので、昼間は植物の呼吸は外部からは分からない。しかし、夜間は酸素を取り入れて二酸化炭素を出すことが分かる。植物には動物のように特別な呼吸器はなく、体の全表面で行われるが、葉の気孔や樹木の茎には皮目などでは特に盛んに行われている。
<屈光性・屈地性>
 
オジキソウに手を触れると、葉を畳んで葉柄をだらりと下げることはよく知られているが、これは植物が下界の刺激に反応して運動する証拠である。ミドリムシのような単細胞植物は水中で自分自身が運動するが、藻類の遊走子、コケ類やシダ植物などの精子のような生殖細胞も自由に運動する。種子植物のような高等植物では光や重力などの刺激の方向に、或いは刺激と反対の方向に曲がる運動が見られ、刺激が光の場合は屈光性、重力の時は屈地性という。アサガオなどの蔓の先は他の物に巻きついて伸びていくが、これは蔓が他のものに接触することが刺激になって運動するので、これを屈触性という。一般に植物の茎は屈光性を、根は屈地性を示すものである。
<生長ホルモン>
 
植物はまた常に生長を続けている。植物体が大きさを増すのは、特定の組織があって、細胞の数を増加するとともに、新生の細胞が生長して大きさを増すからである。茎や根の先端が伸びるのは特にこの組織が発達していくためである。また、茎や根が年々肥大していく現象も、それらの組織の中に形成層という分裂が盛んな細胞の集まりがあるからで、木材を調べて年輪が見えるのは、この肥大生長の跡を見ているわけである。
 植物には生長ホルモンと言って、微量で成長を促す物質が知られている。生長ホルモンと屈光性とは密接な関係がある。生長ホルモンは茎や根の先端で形成され、屈光性が起こるのは、茎の先端で作られた生長ホルモンが光と反対側の方に分布するようになり、その側の生長を盛んにするからだと考えられている。また、種子植物では花が受精すると子房は発育して果実となるが、これは受精に伴って生長ホルモンが生じ、それによって子房の発育が始まるからである。
<再 生>
 
生長の一つの現れとして再生という現象がある。例えば、ヤナギ類の枝を切って水の中に差しておくと、根元に近い方から根がでることが知られているが、挿し木、取り木、接ぎ木などは植物の再生力を応用した技術である。

4.生 態
<環境要因>
植物の生活に影響する外界の色々な条件を環境と言い、その一つ一つの条件を環境要因という。環境要因には光、温度、水、空気、土など色々あるが、これらが組み合わさって植物に影響を与える。例えば光の強弱は植物の形や生活様式に著しく作用し、タンポポのような日向を好む陽性植物と、シダ植物のように日陰を好む陰性植物とができた。
温度も植物の生活に大きな影響を与える。70〜80度の温泉中に生活する細菌、また零下200度の低温に耐える種子などもあるが、一般の植物が生活するのに最も適した温度は10〜30度である。
ハスのような水生植物、ヨシのような湿性植物、サボテンのような乾性植物があり、それぞれ外部形態や内部構造に違った特徴が見られるが、その他一般の植物は中性植物と言い、根、茎、葉の発達が典型的になっている。水は植物の生態を左右することが大きい。
空気の動きである風も植物に関係が深く、種子や花粉の散布は風によって行われるものがあり、風による湿度や気温の変化は植物の蒸散量に大きく影響する。
土には酸性土、アルカリ性土、中性土があって、それぞれ植物の生育に関係がある。例えば、多くの植物は中性土で生育するが、イネ、シャクナゲなどは酸性土でも生育し、マメ類やホウレンソウなどは酸性土を嫌うのでアルカリ性土の方がよい。
<棲み分け>
植物は異なった仲間同士でその生活する場所が異なっていることがあり、これを棲み分けという。大きな木が森林の上の部分を、下草が下の部分を、コケ類が地表を占めているのも一種の棲み分けと見なされる。また、今まで草原のあったところに森林が発達すると、その下に日陰ができ、湿度も高まって新しい環境が作り出され、その環境に適した別の種類の植物が生育するようになる。
<群 落>
自然界に生育している植物は単独に生活することは希であり、集団を形成して生活している。このような集団を群落という。
群落を作っている植物は大抵多くの種類からできている。分類上は縁の遠い植物でも、同じ環境に生活すれば似たような形態を示すようになる。例えば、ハイマツやキバナシャクナゲなどのような高山植物はみな伏臥性の低木状であり、また反対に同一種でも環境が違えば違った形を示すことがある。例えば、ダケカンバは山の中腹以下では直立性の高木であるが、中腹以上の高いところでは伏臥性の低木となっている。

5.分 布
5-1.地理分布
ある地域内の植物の種類全体をまとめて植物相(フローラ)と言う。世界の各地について植物相を調べると、世界を幾つかの分布区系に分けることができる。このような地域別による分布を地理分布という。世界中の植物の地理分布は次の4つの区系に大別される。
<北区>
北半球から熱帯を除いた地域で、最も広大な区系である。我が国はこの区に属し、アカマツ、クロマツ、モミ、コナラ、モクレン、カエデ、ヤマユリ、サクラソウなど、我々が日常見る植物が多い。
<新熱帯区>
ラテンアメリカの大部分を含む区で、南北両半球にまたがり、リュウゼツラン、ユッカ類、サボテン類、オオオニバスなど固有の種類に富んでいる。
<旧熱帯区>
アジア、アフリカの熱帯地域で南北両半球に亘る。木生シダ類、ヤシ類、着生ラン、着生シダ、タケ類、タコノキ類が野生し、チャ、コーヒーなどの産もある。マダガスカル島のオウギバショウ(旅人木)は固有種である。<南区>
南半球のオセアニア、南アメリカ、南アフリカの一部温帯を含む。オーストラリアにはユーカリ類、アカシア類などが多く、南アフリカにはギンヨウジュのように美しい植物がある。
○生態分布
温度、雨量、土質などの環境要因は植物の分布に影響するところが大きく、このような環境に支配された群落を生態分布という。生態分布から見た植物の群落には樹林、草原、荒原などの陸生植物群落と、水生植物群落とがある。
<樹林>
樹林には熱帯降雨林、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、常緑針葉樹林などがあり、熱帯、暖帯、温帯、亜寒帯についてはそれぞれ特有な植物相を示し、その成因については特に雨量が影響することが多い。
<草原>
草原はイネ科やカヤツリグサ科その他の草木が密生した群落で、高山の草原には低木が混じり、低地の草原には河原、丘陵、低山などの発生する小規模なものの他に、熱帯のサバンナ、温帯のステップなどのように、大陸的な気候条件の下で成立する大規模なものもある。湖沼のほとりには水分の多い草原ができるが、特にこれを湿原と呼んでいる。ツンドラは寒帯に発達する特殊な湿原である。
<荒原>
荒原は乾燥の著しい大陸の砂漠や、風が強くて地面が安定しない海岸の砂丘などに見られる。砂漠にはマオウ、サボテンなどが多く、砂丘にはハマヒルガオ、コウボウムギ、ハマニガナなどが見られる。
<水生植物群落>
水生植物群落にはヒシ、ヒルムシロ、シャジクモ、ハス、オモダカなどから形成される湖沼植物群落、ホンダワラ、テングサなどの海草を主とした海洋植物群落などがある。
5-2.垂直分布
高山の麓から頂上へ至る環境条件の変化は、気圧、温度、湿度、光、風の強弱など極めて複雑で、これによって植物の分布状態も異なるが、これを垂直分布と称する。垂直分布にはシイなどを主とする低地帯、クリ、ブナなどを主とした山地帯(ブナ帯)、コメツガ、トウヒなどを主とした亜高山帯、ハイマツ、ツガザクラなどの高山植物が見られる高山帯などに区分される。高山帯でも特に著しいのはお花畑で、亜高山帯と高山帯との境を、森林限界という。

6.生 殖
植物の生殖には無性、有性の二通りがある。
<無性生殖>
無性生殖でも最も簡単なものは分裂で、細菌類、藍藻類、珪藻類のような単細胞植物に見られ、雌雄性の別がなく、体が半分に分かれてそのまま独立した二つの新しい個体となる。体の一部に小さな芽をつくり、これが母体から離れて新しい個体になる出芽法も無性生殖で、酵母菌、オニユリ、ヤマノイモなどに見られる。カビ、キノコ、コケ、シダ植物などでは体の一部に胞子と呼ぶ特別な細胞が作られ、これが発芽して新しい個体を作る。
<有性生殖>
 有性生殖は、最も普通なのは種子植物で見られ、花に雌しべと雄しべとがあって、それぞれ生殖細胞をつくり、二つの生殖細胞が合体して新個体を作る。有性生殖で合一する生殖細胞を配偶子と言う。配偶子の中で、一般に大きく動かない方が雌で卵子と呼ばれ、小さくて自由に運動する方が雄で精子と言われるが、種子植物では雄生配偶子はイチョウ、ソテツの類を除いては運動力はない。
 卵子が精子と合体することなく、単独で新しい個体になることがあり、ドクダミ、ヒメジョオンなどに見られるが、これを単為生殖という。

7.分 類
植物も動物も進化してきたものと考えられるので、今日見たところでは違った植物群も、その祖先を辿って行くと、長い地質時代のどこかで互いにつながりがあったと推測される。それらのうちで、祖先同士が新しい時代につながるものが縁が近いと言い、古い時代に分かれたものは縁が遠いという。このような関係を系統という。進化の道筋を考えて、植物の類縁関係の遠近を示すように分類することを自然分類と言い、これに対して、類縁関係を考えず、便宜的に分類する方法を人為分類と言うが、現在は専ら自然分類だけが行われている。
<細菌類>
 体は単細胞で有性生殖を行わず、分裂によって増殖する。葉緑素がなく光合成をしない。肉眼では見えないほど小さく、チフス菌、赤痢菌、根粒菌などがある。
<藍藻類>
 分裂によって増える。葉緑素が合って光合成を行うが、その他の色素を含み、藍色をしている。ユレモ、ジュズモなどのように、分裂した細胞がつながったまま糸状になっているものが多い。
<粘菌類>
 多数の細胞が合体したもので、変形体と呼ばれる。変形体はアメーバ運動をして、湿った落ち葉や朽ち木の上などを這っているが、乾燥すると胞子をつくりこれで増える。ムラサキホコリカビなどがこの例である。
<鞭毛藻類>
 淡水にも海水にも産しプランクトンを形成している。ツノモ、ミドリムシなどがこの例で、分裂して増えたり接合して有性生殖することもある。
<珪藻類>
 淡水にも海水にも生育するプランクトンで、細胞膜に珪酸を含んで硬く、その死体が珪藻土である。分裂して増殖する。ハネケイソウ、クモノスケイソウ、イトマキケイソウなどがある。
<藻菌類>
 体は、細胞が一列に並んだ菌糸と呼ばれる糸状のものからできているが、水中のハエの死体などに付いて、藻類に似た点もある。無性、有性の両方の生殖がある。ケカビ、ミズカビなどがある。
<子のう菌類>
 体は菌糸が集まってできており、子のうと呼ばれる袋の中に胞子ができたり(ズキンタケ)、菌糸の先に胞子が付いたり(コウジカビ)して増える。酵母菌は単細胞である。
<担子菌類>
 菌糸の集まった傘のような体ができるが、属にキノコと呼ばれるマツタケ、ショウロなどがこれに属する。
<紅藻植物>
 海産が主であるが、少数は淡水にも産する。体は多細胞で、葉緑素の他に赤い色素を含んでおり紅色をしている。無性と有性の両方の生殖をする。テングサ、アサクサノリ、フノリ、ツノマタなどがある。
<褐藻植物>
 すべて多細胞で、大型の海草が多い。葉緑素の他に特有の褐色色素があって全体が褐色をしている。コンブ、ヒジキ、ホンダワラなどがあり、無性、有性の両方の生殖が行われる。
<緑藻植物>
 単細胞から多細胞まであり、また海水、淡水に広く生育している。葉緑素があって体全体が緑色に見える。アオノリ、アオサ、クロレラ、ミルなどがある。
<接合藻類>
 緑藻植物に似ているが、細胞が直接に接合し接合細胞を作るところが異なる。アオミドロ、ツヅミモなど淡水産が多い。
<地衣類>
 藻類と菌類の組み合わせでできている植物である。ウメノキゴケ、イワタケ、サルオガゼなどである。
<車軸藻類>
 主に淡水産の藻類で、体は多細胞で特殊な形態と複雑な生殖器官とがあり、卵子と精子とで有性生殖を行う。シャジクモ、フラスモの類がこれに属する。
<コケ類>
 葉や茎らしいものはあるが、根は仮根で本当の根ではない。体のつくりや有性生殖などの上で、水中生活から陸上生活に移る途中の状態を示している。ゼニゴケのような扁平な形と、スギゴケのように直立したものとがある。
<シダ植物>
 根、茎、葉や外形的にも、内部のつくりの上からもはっきりしてくる。生殖は胞子で行うが、それを入れる器官などは種子植物に似てくる。ワラビ、ゼンマイ、スギナ、ヒカゲノカズラ、ウラジロ、サンショウモ、イヌワラなど種類は極めて多い。
<種子植物>
 体のつくりはシダ植物より一層複雑となり、生殖器官が花と呼ばれるまとまった器官となっているので顕花植物と言われることもあるが、最も重要なことは種子を作ることである。種子植物は種子が裸出している裸子植物と、種子が子房の生育してきた果実の中に入っている被子植物との二つに大別される。
裸子植物 イチョウ類、ソテツ類、マオウ類、マツ類がこれに属し、花のつくりは簡単で、イチョウやソテツ類にはシダ植物同様に動く精子があることが特徴である。
被子植物 大きな木も小さな草もあり、現代の地球上で最も栄えている植物群で、花のつくりは大部分が複雑になっている。双子葉植物と単子葉植物に分かれる。
 双子葉植物は、子葉が2枚、葉は羽状又は掌状の主脈と網状の支脈が多く、外形も複雑である。花の部分は4又は5の数でできている場合が多い。木では年々太って行く性質がある。ネコヤナギ、タデ、クスノキ、ヤマザクラ、カタバミ、ネムノキ、セリ、アサガオ、オミナエシ、キクなど多くの種類がある。
 単子葉植物は、子葉が1枚、葉は多くは平行脈を持って、形も簡単なものが多い。花は3の数でできているものが多く、一般に木のように太る性質はない。セキショウモ、イネ、モウソウチク、サトイモ、ツユクサ、ヤマユリ、アヤメ、シュンランなどがある。

8.植物と人生
 
植物と人間との関係は、一口でいえば衣食住においてのつながりであるが、人体に必要な酸素は植物の光合成による産物であり、文化の発達や社会の形成が植物を栽培する農耕により始まったことはいうまでもない。
 日常生活においては、主食としての穀類をはじめ、野菜、果物、或いはわさび、コショウなどの香辛料から、茶、コーヒー、たばこなどの嗜好品に至るまでが植物による産物である。アサ、ワタなどは衣類の原料として重要であり、建築物、建造物、家具など木材によるものはあまりにも多い。また、ケシ、センブリ、ジョチュウギクなどのように薬用として利用されるものも数多く、紙の原料としてのパルプやコウゾなど、或いは染料になるもの、又は工業資源としての油脂のように、その利用範囲はきわめて広い。
 悪い面では、伝染病その他の病原体として我々を脅かすこともあるが、反面、微生物が自然界における物質循環のなかで果たす役割は非常に大きい。そのほか、以前の原理を応用して品種改良をすることも人間生活に大きな関係がある。

9.植物採集
 
調査・研究又は学習の目的を持って植物をとることである。いたずらに数多くとったり、乱雑になって植物の主要部分を落として採集したのでは草刈りと同じとなってしまう。
 採集に当たっては完全標本を作るよう努力することが大切である。完全標本とはは、茎、根はもちろん、分類学上重要な花や実を持った標本である。特別に目的がある場合以外は、幼植物や異常形のものを標本にすることは望ましくない。また、採集は身近にある野生植物から始めるのが良く、最初から遠くへ出かけると、自分の近所に生えている植物をわざわざ遠くから運ぶ結果になることがある。採集には次の用具を必要とする。
<胴乱>
 
トタン或いはアルミ製の楕円柱形の箱で、大きさは径20〜30B、長さ60Bぐらいのものが普通である。塩化ビニールやポリエチレンの袋でも代用できる。樹木や大型の草本を採集するには大型の胴乱が便利であり、その中に小型の草本やコケ類を採集して入れる場合には、あとで見失わないように、ビニールの袋の中にまとめてから入れると良い。
<野冊>
 
ベニヤ板2枚の間に半折りの新聞紙を数十枚挟み、真田ひもかバンドで締め付けられるように作られたものである。ベニヤ板の代わりにタケやフジづるで編んだものを用いる場合もある。未知の土地に採集に行けば胴乱はすぐ一杯になってしまうので胴乱の中のものを全部取り出して野冊に挟み込む。花弁が散りやすいとか、胴乱に入れると萎むような花を採集した時には、すぐ野冊の新聞紙の間に挟んでしまうのがよい。
<根掘り>
 
竹製もあるが鋼鉄製のものがよい。園芸用の移植ごては柄が曲がって折れやすく役に立たない。先端が尖っているものよりも、凹形になっているものの方が邪魔な根や地下茎を切り離すのに便利である。
<はさみ>
 
どんな形でも良いが、剪定ばさみが一番便利である。生け花用のはさみでも十分役立つ。
<その他>
 
細かい物ではルーペ(拡大鏡)、鉛筆(2Bぐらい)、白い紙テープ、小型ノートなどを持っていき、採集植物を適時観察し、未知の植物を採ったときには紙テープに種名を書き、植物に結びつけておく。野冊に挟むときには、新聞紙にマジックインクで書き付けておく。

10.植物標本
 
標本には乾燥標本液浸標本とがある。乾燥標本は保存が容易で場所もとらないが、内部構造は破壊され、肉質のものや水分の多いものは標本としての価値を失うものがある。液浸標本は内部構造を良く保つことができる代わりに、費用がかさみ、場所もとる。研究目的により、また植物の性質によって液浸標本か乾燥標本かを選ばなければならない。
乾燥標本> 乾燥標本には、植物をそのまま乾燥させる直接乾燥標本と、さく葉標本(細おし葉)とがある。後者はシダ植物、種子植物、海草類などに一般的に用いられている方法で、前者はコケ類、地衣類に適用され、採集した材料を風通しの良いところで陰干しにして、紙の小袋に入れて保存する。一部のキノコ類(サルノコシカケなど)、果実、種子は直接乾燥標本にすることがある。
 ベンケイソウ科やユリ科のような多肉質の植物を押し葉にする場合は、そのまま吸い取り紙で脱水すると多数の日数を要し、途中で葉が落ちてしまうので、アルコールにホルマリンを約5%加えた液に数時間つけてから、吸い取り紙を何回も取り替えて押すと非常に早くできあがる。これは特殊な押し葉の作り方であるが、コメツガ、シラビソなどの針葉樹も、押し葉を作っているうちに葉が全部落ちてしまうので、これを防ぐためには熱湯にさっと通してから吸い取り紙に挟んで押せばよい。
液浸標本> 液浸標本は、多汁質の果物、ギンリョウソウ、キノコなど乾燥標本にすると原形が全く失われてしまうものに用いられる。また、内部構造を研究する場合にも液浸にしなければならない。液としては70〜80%のアルコール、又は5〜10%のホルマリンが一般的で、解剖学用として保存する場合には70%アルコールを90M、ホルマリン5M、酢酸5Mの混合液がよい。液浸標本はアルコールのために葉緑素が溶けて脱色し、ホルマリンのために褐色に変色する。容器は共栓びん(すりあわせのガラスの共栓のついたびん)がよく、液の蒸発を防ぐために栓の合わせ目にパラフィンを流す必要がある。
保 管> 標本にはラベル(名札)を張り付ける。ラベルには植物の学名、和名、産地、採集日付、採集者の順で明記しておかなければならない。特に産地はできるだけ詳細に、生育環境も記しておく方がよい。
標本は標本箱に整理して保管すべきであり、押し葉を保存するところをハーバリュウム(さく葉庫)といい、東大、京大、北大、都立大、科学博物館には本格的なハーバリュウムがあって、新種を記載したときの基本となった基準標本(タイプ標本)が多数保管されている。

11.植物学
 
植物を研究対象とする科学。純正植物学応用植物学に分かれ、狭義には純正植物学をいう。応用植物学には農学、園芸学、薬学などの分野がある。
世 界> 古代ギリシア、中国において、本草学(薬用植物学)として利用面から研究された。まず植物に名前を付け、種類を識別し記載する分類学が発達し、ついで17世紀末顕微鏡の発明とともに植物の内部構造・組織が観察できるようになって形態学が興り、ラマルクは生物はすべて細胞組織からできていることを主唱し、ゲーテは形態学という語を作った。
 19世紀中頃から、顕微鏡の改良につれて細胞学が盛んになり、1900年メンデルの法則の再発見とともに遺伝学と結びついて細胞遺伝学が興った。植物の生活機能を研究する生理学は19世紀中頃から成立し、ザクス、ブフェッファーらによって、実験が行われるようになった。古典的な生理学は個体を対象としていたが、それを植物の群落に当てはめる試みがなされて生態学が分かれ、これには分類学に地理分布を考慮に入れた植物地理学も加わっていった。一方、生理学は細胞内の化学物質やその変化を追究するようになり、生化学に発展した。
 植物学は、はじめは種子植物だけを研究対象としていたが、シダ植物、コケ類、菌類などの形態や生活史が明らかにされた19世紀末期以後は、隠花植物(花を持ち種子で繁殖する顕花植物に対立する分類群で、花を持たず胞子で繁殖する植物の総称)も盛んに研究されるようになり、生理学と結びついて微生物学、病気と関連して細菌学が発展した。
我が国> 我が国の植物学は中国から本草学が入ってから発達し、江戸時代には「大和本草」(貝原益軒)、「本草網目啓蒙」(小野蘭山)などが出版された。江戸末期には蘭学の影響で西洋の植物学が移入され、飯沼慾斎、宇田川榕庵らが紹介につとめた。我が国の植物を採集して西ヨーロッパに紹介し、学名をつけたのはトゥーンベリ、シーボルト、サバチェである。
 明治15年、東京植物学会が東京生物学会から独立し、矢田部良吉、牧野富太郎らが我が国の植物相の解明に努力した。分類は松野任三に受け継がれ、早田文蔵が台湾、中井猛之進が朝鮮の植物を研究した。藻類は岡村金太郎、菌類は白井光太郎が基礎を固めた。三好学はブフェッファーのもとに留学して生態学を我が国に紹介し、柴田桂太も西ヨーロッパの近代生理学を導入し、生理学、生化学に幾多の門下生を育成した。藤井健次郎はストラスブルガーに学び、細胞遺伝学を研究し、国際細胞遺伝学を研究し、国際細胞遺伝学雑誌「キトロギア」を発刊した。


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