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大阪府にも半自然高原がかつて至るところで見られたが、カヤが利用されなくなったため、急激に姿を消し、そこに生育する草原生植物も数を減らしているという。神戸大学大学院の山戸さんたちが大阪平野南部の代表的な半自然草原(岩湧山、和泉葛城山、大和葛城山の山頂部)について研究され、日本造園学会に論文「面積の縮小や管理方法の違いが大阪平野南部の半自然草原の種多様性に及ぼす影響」を発表されました。種多様性維持などの観点から、岩湧山のようなカヤ原の保全・管理が必要と結論づけられています.以下に、その要点を整理します。詳しい全文は、日本造園学会誌Vol.64 No.5 561-564をご覧ください。
(上田泰二郎)
■草原面積・管理方法
岩湧山、和泉葛城山、大和葛城山の山頂部に孤立的に残存する半自然草原は、数十年前まではいずれも、屋根葺き材(カヤ)、緑肥、家畜の飼料、炭俵材などの利用を目的として、年1回の刈り取り(岩湧山ではさらに2年に1回の火入れ)によって維持・管理されていたススキの広がる採草地であった。
半自然草原の面積は岩湧山が8.4ha、和泉葛城山が15.7ha、大和葛城山が22.1haであった。しかし、近代化とともに、このような草原の生産物の需要は低下し、その結果生じた管理の放棄による遷移の進行(灌木類の進入、低木林化)、植林地への転用、種々の開発行為により、面積は、和泉葛城山3.3ha(過去の21%)、大和葛城山7.2ha(同33%)へと大幅に減少し、残存する草原植生もススキからネザサの広がる草原へと推移した。岩湧山においては、カヤ場を守り続けたいという地元住民の熱意により、1984年から年1回のススキの刈り取り(面積の半分程度)や、進入木の伐採などの管理が再開されたため、旧来の草原面積やススキの広がる草原が維持されている。
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※植物相調査は図の「半自然草原」内で行われた。 |
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草原 |
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法規制 |
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岩湧山 | ススキ型 | 正月前後に年1回の刈り取りおよび2,3月頃に2年に1回の火入れ | ススキ型 | 重要文化財の屋根葺き材採取や草原景観の保全などを目的に、1983年より灌木類の除去(当年のみ約3000Fの火入れ)および1984年より草原面積の半分程度を3,4月頃に年1回の刈り取り | 1958年4月金剛生駒紀泉国定公園に指定 | 四季彩館利用者数:約1万5千人(1999年) |
和泉葛城山 | ススキ型 | 11月から1月にかけて年1回の刈り取り(痩せ地は2年に1回) | ネザサ型 | キャンプ場としての利用、防災、ミカン畑等のマルチング材採取などを目的に、部分的に2年になどを目的に、部分的に2年に1回〜年2回程度の刈り取り | 1996年10月金剛生駒紀泉国定公園に指定 | ハイキング、登山、キャンプ利用者数:約2万5千人(1999年) |
大和葛城山 | ススキ型 | 12月中旬から3月初旬にかけて年1回の刈り取り | ネザサ型 | ハイキング道維持のために道周辺を年1回程度の刈り取り、防災、景観保全などを目的に部分的に不定期な刈り取り | 1958年4月金剛生駒紀泉国定公園に指定 | ロ−プウェイ利用者数:約1万人(1998年) |
※四季彩館:岩湧山中腹の自然案内施設、ロ−プウェイ:大和葛城山麓から山上を結ぶ |
■草原生植物相の現状
草原生植物は、岩湧山で94種、和泉葛城山で103種、大和葛城山で118種が過去に生育していたと仮定されている。しかし、現在はそれぞれ75種(過去の80%)、61種(同59%)、71種(同60%)へと減少し、草原生植物相の単純化が認められた。
貴重植物(大阪府レッドデ−タブックの絶滅・絶滅危惧・準絶滅危惧)は、岩湧山で13種から9種(過去の69%)へ、和泉葛城山では、17種から2種(同12%)へ、大和葛城山22種から2種(同9%)へと普通種以上に激減している。
それぞれの草原の出現種数を比べると,岩湧山が和泉葛城山や大和葛城山に比べて,豊かな種多様性を保持していることがわかる。また,草原面積(8.4ha),管理水準(草原管理の再開)をみても,いずれも岩湧山が最も良好であり,種多様性の高さはこのような草原面積,管理を反映ていると考えられた。
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岩湧山 | 和泉葛城山 | 大和葛城山 | 全体 |
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1980年代以前 |
94 | 103 | 118 | 148 |
1996年以降2000年まで |
75 | 61 | 71 | 104 | |
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1980年代以前 |
13 | 17 | 22 | 33 |
1996年以降2000年まで |
9 | 2 | 2 | 11 |
■草原生植物保全の必要性
草原の大部分が放置されている和泉葛城山や大和葛城山では遷移等が進み、さらなる草原景観の衰退や草原生植物の絶滅・減少が危惧される。岩湧山では管理の再開によって草原生植物の絶滅・減少に歯止めがかかった。このことなどから、種多様性の維持が草原面積や管理と大きく関連しているものと考えられる。和泉葛城山や大和葛城山においても、かつての管理方法である年1回の刈り取りを早急に進めることが望まれる。